家族が困りやすい認知症の行動・心理症状(BPSD)と向き合い方

福祉の話

はじめに

「今まで穏やかだったのに、急に怒るようになった」
「同じところを何度も歩き回るようになった」
「見えないものが見えると言ったり、盗られたと訴える」

認知症になると、このような行動や心の変化が見られることがあります。
これらは**行動・心理症状(BPSD)**と呼ばれ、本人の性格が変わったわけではありません。

家族にとっては戸惑いや不安、つらさを感じやすい症状ですが、
原因や背景を理解し、関わり方を工夫することで、症状が和らぐこともあります。

この記事では、認知症の行動・心理症状(BPSD)について、
よくある症状の例と、家族が知っておきたい対応のポイントを分かりやすく解説します。

行動・心理症状は、突然起こっているように見えて、
実は「記憶障害」「理解力の低下」「実行機能障害」といった中核症状が背景にあります。
そのため、行動だけを止めようとしてもうまくいかないことが多いのです。

行動の背景を知りたい方は、
認知症で起こる中核症状について、もう少し詳しく知りたい方はこちら👇

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行動心理症状(BPSD)とは?

 中核症状は脳の神経細胞が死滅して起こるのに対して、行動心理症状(BPSD)は中核症状に付随して起こる症状です。その為、周辺症状と言われることもあります。

 BPSDは行動症状と心理症状があり、間違った対応をすることによって本人の気持ちが不安定になるとBPSDはますます悪化してしまいます。反対に適切な治療(服薬など)を行い、不安などのストレスを取り除けばBPSDは改善することができるということです。

行動・心理症状は「性格の問題」ではありません

怒りっぽくなる、拒否する、妄想を訴える――
こうした行動が続くと、
「もともと頑固な人だったから」
「性格がきつくなった」
と感じてしまうことがあります。

しかし、行動・心理症状は本人の性格が変わったから起こるものではありません。認知症によって、物事を理解したり、状況を整理したりする力が低下し、不安や混乱、恐怖をうまく言葉で表現できなくなった結果、行動として表れているのです。

たとえば、
介護を拒否するのは「わがまま」ではなく、何をされるのか分からない怖さや、
自分の尊厳が脅かされる不安が背景にあることがあります。

また、幻覚や妄想も「嘘をついている」のではなく、本人にとっては現実そのものであり、
脳の働きの変化によって起こる症状です。

行動だけを見るとつらく感じますが、その奥にある気持ちに目を向けることで、家族の関わり方は少しずつ変わっていきます。

行動・心理症状「困った行動」ではなく「困っている気持ちのサイン」だと理解して欲しいと思います。

認知症でよく見られる行動・心理症状(BPSD)の例

徘徊(歩き回る)

徘徊とは「当てもなくウロウロ歩き回る」という意味ですが、本人は目的もなく歩いているのではありません。例えば、入院したことを忘れて家に帰ろうとして道がわからなくなってしまう人。人に会おうと家を出たけど、歩いているうちに目的を忘れてしまった人。育児中だった頃を思い出し、子供のご飯を作りに行かなくちゃと出ていく人などがいます。その結果、行方不明になる人も少なくありません。徘徊は夕方から夜にかけて起こりやすいと言われています。

症状例

・まだ働きたいという気持ちがあった定年を迎えた人が夜中に着替えて会社に行くと言い出す。

・昔、子供を失った経験がある人が「子供が泣いている」と言って探しに出かける。

・父母と一緒に暮らしていた頃の自分に戻っていて、自分の家にいるのに「家に帰る」と言って出かける。など

不安・焦燥

物忘れ(記憶障害)などの認知症の症状が現れ始めると、不安な気持ちを抱える利用者が増えます。特に失敗を繰り返したり、症状が悪化したりすると将来への不安を募らせるようになります。

周囲の対応や治療で不安が和らげば良いのですが、不安が続くとやがて焦燥感を持つようになり、いつも何かに怯えて、じっとしていられなくなります。ひどくなるとそれが介護抵抗や暴力などにつながることもあります。

症状例

・眉間にシワを寄せて、何かに怯えるように不安におののく。

・じっとしていることができず、絶えず動き回る。

・ひどくなると自己防衛のため、介護抵抗や暴言・暴力といった症状も現れるようになる。など

怒りやすい

認知症の初期、人格が変わってしまったかのように怒りぽくなる人がいます。これは物忘れなどの症状に対する不安や恐怖、苛立ちによって、些細なことに敏感になってしまうためです。

さらに、脳の機能が低下して感情を抑える力も低下しているため、怒りを爆発させてしまうのです。ちょっとしたことで大声で怒鳴ったりイライラしたりして、特に自分で解決できない時に怒りが抑えられなくなります。

症状例

・食事がくるのが少し遅かったり、肩が触れるなど、些細なことで急に怒り出す。

・突然怒りを爆発させて、かんしゃくを起こす。

・怒り出すと、誰の話にも耳を貸さない。など

介護抵抗(暴言・暴力)

認知症の人の中には介護されることに抵抗を示す人もいます。これは、自分の置かれている状況や介護者の言葉が理解できなくて、「何をされているか分からない」と不安になるためです。

また、何が何だか分からないまま「突然服を脱がされた」「何だか分からない薬を飲まされた」など、嫌な記憶が残ってしまい、それが介護抵抗につながることも多くあります。特に着替えや入浴の介助など、体に触れられるのを怖がり、嫌がります。

症状例

・衣服の交換、おしめ交換、体位変換、入浴の介助などの時に、体に触られている理由が理解できず「嫌なことをされる」と思って抵抗する。

・薬を嫌がって飲まない。

・出された食事を食べない。

・時には介護者の手をつねったり、殴ったり(暴力)、罵倒したりすることもある(暴言)

怒りっぽくなる、不安が強くなる、妄想が出るなどのBPSDは、家族にとってとてもつらいものです。こうしたつらさは、映画の中でとてもリアルに描かれています。

BPSDと家族の苦しさが伝わる映画はこちら👇

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行動・心理症状(BPSD)が起こる主な原因

 認知症にみられる記憶障害や見当識障害等の中核症状は、全ての人にみられるものです。一方で徘徊や妄想などの行動心理症状は全ての認知症高齢者にみられる症状ではありません。行動心理症状は一次要因と呼ばれる中核症状に身体不調やストレス、不適切な環境や不安感・不快感、不適切なケアなどの二次要因が作用して起こると考えられています。

図で表すと下の図のようになります。

家族が知っておきたい対応の基本

■基本姿勢として、

・本人の想いに共感すること※否定したり正そうとするのはNG

・本人のすることに手を出しすぎず目の届く範囲で見守る

・本人の不安な気持ちの原因を考え、それを解消できるように環境等を整える。

■対応例として

・イライラして起こり出した時に、「なんで怒ってるの?」や「そんなに怒鳴らないで」など相手を否定するような言葉かけは禁句です。だからといって何もせずほっとくのも良くありません。そういった時はなるべくそばに行き本人の話に耳を傾けてあげてください。その上で「気づかなくて、ごめんなさい」や「今度から気をつけますからね」など、気持ちに寄り添った声かけをすることが大切です。

・家の外に出ようとする本人を無理に制止しても効果がないどころか逆に状況を悪化させてしまいます。「外へ出ちゃダメ」「戻って」などと強い口調で注意するとパニックになってより慌ててしまい怪我や事故のリスクが高くなります。そういった時は本人の不安な気持ちを鎮めて落ち着いてもらうことが大切です。可能であれば、そのまま外出してもらうが良いでしょう。その時は家族が付き添って安全に気を配ってください。歩いているうちに気持ちが落ち着いてきたら声をかけて家に戻ってみてください。また夜など外出するのが難しいときは優しく声をかけてみましょう。「もう遅いから明日にしましょう」と本人が納得できる理由をつけて先延ばしにする対応もありですが、本人の「家に帰りたい」等の気持ちを受け入れることが何よりも大切です。

このように、BPSDへの対応は「正しいかどうか」よりも、本人の不安や混乱をどう和らげるかがとても重要になります。ただ、家族だけでずっと対応し続けるのは大きな負担になります。

対応や関わり方については、
認知症の症状に合わせた関わり方と、家族が疲れすぎない工夫をこちらで詳しくまとめています👇

認知症の方への接し方・対応のポイント|家族ができる実践編
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行動・心理症状がつらいときの相談先

行動・心理症状が続くと、「自分が悪いのではないか」「もっと頑張らなければ」と、家族が追い込まれてしまうことがあります。「今日はもう無理」「逃げたいと思ってしまった」そんな気持ちを抱くことも当然あると思います。そう思うのは、介護を真剣に向き合っている証拠です。認知症のケアは、ひとりで抱え込むものではありません。そんなときは、早めに専門職へ相談することで、家族の負担が軽くなることも少なくありません。

ここでは、認知症のことで相談しやすい主な窓口を紹介します。

地域包括支援センター(最初の受け皿として)

地域包括支援センターは、認知症や介護のことで悩んだときに、最初に相談できる65歳以上の方の総合相談窓口です。

介護保険のことだけでなく、「受診した方がいいのか」「どこに相談すればいいのか」など、
まだ整理できていない悩みでも大丈夫です。

相談したからといって、すぐに何かを決める必要はありません。話を聞いてもらうだけでも構いませんので、気軽に相談をしてみてください。

医療機関(受診=決断ではない)

かかりつけ医や、認知症を診ている医療機関も、心配な症状があるときの相談先になります。

「受診=すぐに治療や診断が決まる」わけではありません。
症状の背景に体調不良や薬の影響がないかを確認するだけでも意味があります。

家族が気になっていることをメモにして伝えるだけでも十分です。

介護サービス・支援の力を借りるという選択(居宅介護支援事業所)

デイサービスや訪問介護などの介護サービスは、本人のためだけでなく、家族が休む時間をつくるためのものでもあります。介護保険の認定があれば居宅介護支援事業所(ケアマネージャーがいる事業所)に相談してみてください。介護サービスを利用することで一人で抱え込まず、程よい距離感を保つことが出来ます。

「まだ早いかも」と感じる段階でも、情報を知っておくだけで、いざというときに選択しやすくなります。行動・心理症状が出ている時期こそ、家族だけで抱え込まないことが大切です。

認知症について全体像から確認したい方は、
認知症について、基本から分かりやすく解説した記事はこちら👇

認知症とは?原因・症状・種類を家族目線で分かりやすく解説
認知症とはどんな病気なのかを、原因・症状・種類に分けて家族目線で分かりやすく解説。初めて認知症について調べる方に向けた入門記事です。

最後に

認知症のケアに、こうすれば必ずうまくいく、という正解はありません。
症状や状況は一人ひとり違い、家族の関わり方も、無理のない形で変えていくことが大切です。

つらいときに立ち止まることや、誰かの力を借りることは、決して逃げではありません。
家族が心身ともに疲れ切ってしまわないことも、認知症の方を支えるうえで、とても大切なことです。ひとりで抱え込まず、できるところから、できる形で関わっていただければと思っています。

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