【実践編】中核症状やBPSDが現れたらどうしたらいい?実際にできる具体的な対応法を考えてみよう。

福祉の話

1.はじめに

「怒る」「夜中に歩き回る」「物を盗まれた」等、家庭や介護の現場でそんな場面に戸惑った経験はありませんか?前回の記事で紹介したBPSD (行動心理症状)は発生要因として中核症状(一次要因)に身体不調やストレス、不適切な環境や不安感・不快感、不適切なケアなどの二次要因が作用して起こると考えられている。とお伝えしました。

介護する側からすると理解・対応が難しい行動かもしれませんが、”認知症だから仕方がない”というわけではありません。認知症高齢者のBPSD(行動心理症状)は本人からのSOSかもしれないという理解が大切になってきます。

この記事ではBPSD(行動心理症状)が家庭や介護の現場で起こった時に出来る実践的な対応のコツを場面に分けて紹介します。

2.事例をもとに考えてみよう

【ケース①】同じことを何度も聞く

同じことをなん度も言ったり聞いたりする 認知症の中核症状である記憶障害です。ご自宅や職場でこういった場面はないでしょうか?

「病院行くのはいつだっけ?」「夕飯は何だっけ?」と一度説明して納得しても、数分後に同じことを何度も聞かれると対応する側も疲れてしまいます。

まず対応を考える前に本人の気持ちと、対応するあなた側の気持ちを考えてみましょう。

💕本人の気持ち

・知りたい。知っておきたい。

・先のことがわからないから、聞かないと不安になる。

・不安だから側にいて話を聞いて欲しい。

・何度も同じことを聞いているつもりはない

💕あなたの気持ち

・同じことを何度も聞かれて疲れるし、イライラしてしまう。

・何度言えば分かっってくれるのか、その都度対応するのもしんどい。

それぞれの気持ちを理解した上でどのような対応がいいのか?考えていきたいと思います。

NGな対応

「うんざり」「イライラ」を表に出すのは厳禁です。

あなたを困らせようとして、何度も同じことを言ったり聞いたりしているのではありません。不安な気持ちをどうすることもできず、あなたに頼っているだけです。そんな困っている本人に「さっきも言ったでしょ」や「何回も言わせないで」等のうんざりした態度やイライラした気持ちぶつけてしまうのは逆効果です。さらに本人の不安な気持ちが大きくなり、そこから怒りっぽくなったり、暴言・暴力が出たりBPSDが悪化する可能性があります。

良い対応

その都度、丁寧に答えるのが基本です。

毎日繰り返し同じ質問をされたら対応するあなたもヘトヘトになって当然かもしれません。本人が繰り返し聞いてくるのは不安もありますが、「そばに来てほしい」「優しくして欲しい」という気持ちがあるからです。同じことを聞かれても、その都度そばに行って「病院行くのは○日だよ」「晩ご飯はあなたの好きな○○だよ」と答えてあげてください。

そうした心に寄り添う対応が不安定な気持ちを安定させることにつながります。時間があれば、そのまま話をしたり、一緒に散歩したりすると不安な気持ちも和らぐのではないでしょうか。また「お茶飲む?」「散歩に行こうか」と違う話題を投げかけてみるのも本人の気持ちが紛れることもあるので良いのではないでしょうか。

接し方以外の参考例

・目で見て分かる日めくりカレンダーに予定を書き込み(病院の受診日等)一緒に確認する。

・目につきやすいところにメモを残しておく。

会話以外でも目で確認できるようにしておけば後から見ても理解が出来るので、言い直しのストレスも少し軽減しますし、本人にとっても「ここを見れば必要なことが書いてある」と感じられて安心につながることもあると思います。

■私の体験談として

施設職員でさえ入所者に何度も同じ事を聞かれ言葉ではその都度説明をしていますが、何度も聞かれるストレスでうんざりした態度が出てしまっている職員もたくさん見てきました。私も認知症の勉強をするまでは同じように感じていた時期もありました。1日8時間の仕事での対応でさえ、そのようなストレスがかかってしまうのに24時間一緒に生活している家族であれば、それ以上のストレスがかかると思います。それでも本人の視点で考えれば記憶障害等の中核症状から日頃から多くの不安を抱えている心理状態で、しかも何度も聞いている自覚はないことがほとんどです。何度も聞かれることで、「わざと聞いているのではないか」「かまって欲しいだけではないか」等思ってしまうかも知れませんが、相手の不安な思いを汲みっとって、安心できる対応を心がけることで相手の安心に繋がることを是非覚えておいて欲しいと思います。

【ケース②】盗まれたと疑うようになった(物盗られ妄想)

物忘れがひどくなり、最近自分でしまった物の場所が分からなくなる。単なる「置き忘れ」や「しまい忘れ」が多いのだと思いますが、財布や貴重品がなくなった時に「誰かが盗んだ」と騒ぎ出す。ご自宅や職場でこういった場面はないでしょうか?

時には、身近な家族や職員等の支援者を疑うこともあります。そのような事を言われると、いつも色々と支援をしている側からすると腹が立ってしまうこともあると思います。

ここでも、対応を考える前に本人の気持ちと、対応するあなた側の気持ちを考えてみましょう。

💕本人の気持ち

・自分が大事なものをなくすはずがない。

・自分はなくしてないので、家族(職員)の誰かが盗んだに違いない。

・泥棒だとすれば、警察に通報しなければ…。

💕あなたの気持ち

・誰も盗んでないわよ

・なくしただけならまだしも、家族(職員)が盗んだと疑われるのは腹も立つし悲しい。

NGな対応

「私は盗んでない」と弁解するのはNG

本人は記憶障害のせいで自分でしまった事を忘れてしまい「財布を盗まれた」と思っているので、それを「誰も盗んでない」「なくしただけじゃない?」「ちゃんと探したの?」など否定しても本人は納得しません。さらに本人は「嫌な事を言われた」「攻撃された」と家族(職員)に対して、もっと不信感を抱くようになります。さらに興奮して暴言や暴力につながることもあるので、決して本人の言い分を頭から否定はしないようにしてください。

良い対応

相手の言い分を受け止めて一緒に探す。

「お前が財布を盗んだだろう」と言われたら、否定したい気持ちをグッとこらえて「財布が盗まれたの?」「大丈夫ですか?」「それは困りましたね」等、相手の言葉を受け止めたり、相手の気持ちに寄り添って共感するのも大切です。物盗られ妄想が出ている時は興奮していることが多いので、「一緒に探しましょう」と周りを探しながら本人の好きな事や食事の話など別の話を切り出しながら探すのも良いかも知れません。多くの場合タンスの引き出しやバッグの中など身近なところにしまってあることが多いです。探し物が見つかった時も本人自身が見つけれるように上手く導いてあげるのもいいと思います。例えば探している最中にあなたが先にタンスの引き出しに財布があるのを見つけたとします。そこで見つかったと伝えず本人に「タンスの中は見てみた?」と本人に探してもらい見つけてもらいます。探していたものが見つかれば本人もホッとして気持ちも落ち着くでしょう。

■私の体験談として

施設で働いていた時に70代のAさんというおばあちゃんがいました。その人は有名大学で研究をしたり人に講義したりして働いていた方でとてもプライドの高い人だったと家族から伺っていました。その方が認知症が進行し物忘れが目立ってきた時に「財布がなくなった」「B職員がとった」と言い出したことがありました。そのB職員は日頃からAさんをとても気にかけ他の職員が気がつかないことでもAさんのために色々としてあげていた人でした。そんなBさんはAさんから盗んだと疑われたことで、とてもショックを受けて私に相談されたことがありました。その時は私がBさんに変わって対応しAさんと一緒に財布を探すことになりました。8畳ほどの部屋でしたが、一緒に探しているとAさんが寝ているベッドの枕の下に財布がしまってありました。私は「ありましたよ」と言わずAさんに「ベッドは見てみました?枕の下とか」と見てもらうよう促すとAさんは枕を持ち上げ「あった」「なんでこんなところにあるん」と安心した様子で、職員に盗まれたことはすっかり頭の中から消えた様子でした。

今回の事例のように本人から犯人扱いされると悲しい気持ちになり落ち込んでしまうこともあるかも知れません。家族や職員など身近な人に財布等を盗まれたと思い込むのは認知症状の一つです。疑われても落ち込まず冷静に対応をするのが良いと思います。それでも一緒に探すのも辛い時は1人で抱え込まず第3者を頼って対応をお願いしましょう。

3.最後に

この記事を読んでくださった皆さまにお願いしたいのは、認知症の人を私たち視点で捉え対応していては認知症の人の表情は硬いままで穏やかに過ごすことは出来ません。そうではなく、私たち支援者側の「見方や捉え方」を変えることが認知症の人が安心して穏やかに過ごせるようになることに繋がることを少しでも理解していただければと思います。

参考文献はこちら↓

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